なぜ幼児教育は重要なの?幼児教育が将来の収入に影響するってホント?

幼児教育について

幼児教育の重要性とその目的については世界中で多くの研究がなされており、幼児期の教育がその後にどのような変化をもたらすかということが明らかになってきています。

ただ実際に子育てを行う立場にいる人で、その重要性に関してよくわかっている人はどれだけいるでしょうか。幼児教育はなぜ重要なのでしょう。また、多様な幼児教室や幼児向け通信教育等がある中で、どのような目的をもって教育に携わればよいのでしょうか。

これから幼児教育を行う立場にいる人は、ぜひ知っておきましょう。

幼児教育とは

そもそも、幼児教育とは何を指すのでしょうか。

幼児教育について、ブリタニカ国際百科事典では、以下のように記述されています。

幼児期は身体運動の充実期であり,基本的生活習慣の自立するときでもあり,人格形成の基盤をつくる重要な時期である。したがってその教育にあたっては,知的教育に偏することなく,生活全般を通じてその発達を助長するために,好ましい経験を与えるとともに,よい文化財や教材を与えることを考えるべきである。幼児教育の場はまず家庭であるから,両親による教育を充実する必要がある。3~4歳以後は,同一年齢の友人との接触の機会を与え,徐々に集団生活を経験させることが望ましい。幼児教育施設には,幼稚園のほかに,家庭での保育に欠ける幼児を保育,教育する目的をもった保育所がある。

【引用】コトバンク

上記にもある通り、幼児期はその後の人生において重要な役割を果たしていますが、この時期に教育的働きかけを行えるのは保護者や保育者が主となります。

子供自らが教育的機会を得ることを選択することが困難であるこの時期の特徴を考えると、子供にとって何が最善であるのかを大人が真剣に考え選び、実行することが、子供の将来にとって重要であるといえるでしょう。

幼児教育の重要性

幼児教育とは、未就学児、つまり小学校に入学する前の子どもに対する教育。

上記で触れた通り、家庭や地域社会、保育園や幼稚園など、外部との関わりは全て幼児教育と言えます。

ではなぜ「幼児教育が子どもにとって必要なのか」以下、幼児教育の重要性について詳しく紹介します。

遺伝だけで知能が決まるわけではない

「幼児教育が重要であるといっても、遺伝によって子供の能力は決まっているのではないか」と考える方もいるかもしれません。

では、具体的に遺伝がどの程度関与しているのか、各種研究等をもとに考えてみましょう。

行動遺伝学の第一人者である安藤寿康教授は、18年間に及ぶ総数1万組双生児について研究しました。

その結果、あらゆる能力のうち、約50%は遺伝によるというデータが得られ、そのうち、知能は70%以上、学力は50~60%程度が遺伝の影響を受けていたことが分かったのです。

その上で、安藤教授は遺伝と能力の関係について以下のように述べています。

世界中で進められた一卵性双生児と二卵性双生児の類似性を比較した研究では、知的能力を測るIQは、17~18歳ごろに向かってだんだんと遺伝の影響が大きくなっていくことが分かっています。成長とともに脳のシナプスの結合が増え続けていき、1人で行動する時間が増えていくにつれて、遺伝的な個人差が現れてくるのです。つまり、0~6歳ごろまでは遺伝の影響はまだそれほど見られず、家庭環境の影響が大きいといえます。

【引用】遺伝要因が教授 ・学習過程 に及ぼす諸効果2

上記のことから、このことから、幼児教育においては、短期的な効果を期待することよりも、幼児期において適切な環境を保護者または保育者が用意することで、子供自身が遺伝的にもっている能力をのちのち生かせるような土台作りをすることが重要だともいえます。

また、知能が遺伝以外の要素からも発達することもわかってきました。

同志社大学生命医科学部医生命システム学科の石浦章一教授は以下のように述べています。

子供の“頭のよさ”は、遺伝といった先天的な要素よりも、教育や環境などの後天的な要素が大きいと見られているのです。子供の脳の神経細胞がもっとも発達するのは1歳から2歳にかけてです。このときに脳神経が爆発的に発達し、その後、数年かけて余計なものを整理し、10歳くらいで神経細胞は必要な数まで下がり安定します。1~2歳のときの神経細胞を増やすことが重要なので、そのためには、この時期に十分な栄養をもらっている必要があります。さらにその後は、脳神経のつながりを形成するための知的な刺激を受けることが重要になります。

すなわち、遺伝の要素だけで知能が決まるわけではなく、保護者や保育者が子供にどのような関わり方をするかが重要だといえるのです。

具体的には、スキンシップや肯定的な言葉がけ、また、本の読み聞かせや自然体験、適度な運動をすることも子供の能力を大きく伸ばします。

幼児教育が自尊心を高める

幼児教育というと、知能開発や能力開発が一般的なイメージかもしれませんが、実は、幼児教育を通して子供の自尊心を高めることにも繋がるのです。

幼児教育における自尊心とは、プライドではなく自己肯定感(自らを価値ある存在と感じること)の事を意味します。

ここで注視すべきことは、「自尊心が高い人が成功するのではなく、成功した人の自尊心が高まる」といわれる事。

つまり、幼児教育を通して、目の前にある小さな課題に対してこつこつと努力を重ね、そうすれば少しずつできることが増えていくという過程(成功体験)を幼少期から経験することができるのです。

この成功体験は、できないことがあっても努力すればできるようになるという忍耐力にもつながります。そして、このような体験、感覚を繰り返すうちに、「自分はやればできるのだ」という自己肯定感を高めることができるのです。

「自己肯定感が高いとどのように人生にプラスになるのか」、たとえば受験期、一般的な大学受験を例にとってみましょう。

  1. 自分自身はどの大学・学部・学科でどのような勉学に励みたいのか、将来の夢を描きながら自分自身との対話から始まる
  2. 自己肯定感が低いと、「自分はそんな大学に行けるはずがない」と考え、チャレンジする前から自分自身の可能性を否定してしまう
  3. 行きたい進学先が見つかってからも、合格点に達するために時間をやりくりし、集中力を保って学習に励まなければなりませんが、短いようで長い受験期、様々な誘惑がある
  4. 「自分は努力して必ず第一希望の進学先に行くのだ」という強い信念を持つことができれば、途中で投げ出すことなく受験期を乗り越えることが出来る

上記は、長い人生のうちのほんの一例にすぎません。

人生には、就学、受験、就職、結婚、出産など、人生のターニングポイントといわれる時期があります。

それらのすべての場面において、自己肯定感が高い人こそが、本来の自分自身のもつ力を如何なく発揮することができるのです。

脳の80%が3歳までに完成する

近年の研究で、脳の80%が3歳までに完成することがわかってきています。

これは有名なので、既に知っている、聞いたことがあるという人もいるかもしれませんね。

2001年にユニセフが発表した世界子供白書には、特に0歳から3歳における脳発達の顕著さに着目し、以下のように述べています。

子どもが3歳になるまでに脳の発達がほぼ完了する。(中略)わずか36カ月の間に子どもは考え、話し、学び、判断する能力を伸ばし、成人としての価値観や社会的な行動の基礎が築かれる。

生後の何年かは子どもの人生にとって、非常に大きな変化の時期であり、長期的な影響をもつので、子どもの権利の保障は子どもの人生のスタートの時点で開始されなければならない。この大事な時期に子どものためにどのような選択をし、行動をするかが、子どもの発達だけでなく、国の前進に影響を与える。

(中略)子どもの人生をより豊かにするための努力に最も適した出生から3歳になるまでの期間をむだにすべきでもない。

【引用】2001年にユニセフが発表した世界子供白書

そしてこのことは、幼少期の過ごし方がいかにその後の人生において重要かを意味しています。

では、具体的に保護者や保育者ができることはどのようなことでしょうか。

それは、子供へのスキンシップや会話を楽しむこと、絵本の読み聞かせなどを通して子供の世界を広げること、そして自然や動物と触れ合う体験を通して刺激を与えることです。

ハーバード大学児童発達研究所のジャック・ジャンコフ所長は、愛情が脳内のシナプスの発達を助けるとしています。

そして、何より大人との愛情ある交流が乳幼児期には不可欠であると述べています。

将来にも大きな収入を及ぼすことに

幼児教育を受けさせることで、たとえば将来の収入にさえも大きな影響を与えます。

幼児教育を行うことで、子供がもつ様々な能力を更に伸ばすことができるため、将来の就職や職業の選択肢も必然的に広がるのです。

ここで、幼児教育と収入の関係性について、具体的に見てみましょう。

教育経済学では、教育に関わる資金を経済活動の視点からとらえ、教育は子供の将来に向けた投資(人的投資)として考えます。

研究の結果、最も収益率が高いのは就学前の教育、つまり幼児教育です。

次に、ノーベル賞も受賞したシカゴ大学の経済学者ジェームズ・ヘックマン教授による調査をご紹介します。

ヘックマン教授は「ペリー幼稚園プログラム」という就学前教育プログラムに着目。

調査内容は、アフリカ系アメリカ人のうち低所得者層にあたる家庭で育つ3歳から4歳児に「質の高い就学前教育」を受けさせることでどのような結果が生じるかというもので、卒園後も約40年にわたって追跡調査が行われました。

その結果、27歳時点での持ち家率、40歳時点での所得はこのプログラムを受講できた処置群の方が、プログラムを受講できなかった対照群よりも高かったということがわかりました。

ユースフル労働統計-労働統計加工指標集-2017によると、最終学歴が高校卒の男性の生涯所得は2億730万円であるのに対し、大学・大学院卒は2億7000万円と、6,000万円以上もの差があるのです。

このことは、豊かな幼児教育を通して自己肯定感を高めた子供は、そうでない場合よりも収入面でも大きなメリットを得られやすいということを意味しています。

公立私立の教育機関にかかる金額差、将来のため初期投資の是非を検討

たとえば、子育て世代の親からは「子どもが小さいうちは教育にはお金をかけず、将来の学費や習い事のために貯金しておこう」という意見も聞かれます。

しかし、子供の将来を考え、質の高い教育を受けさせるという目的で私立の幼稚園や小中学校に進学させた場合。

学習費総額は、公立と私立ではどの程度差が出るでしょうか。

平成28年度文部科学省が実施した調査「子どもの学習費調査」によると、私立公立それぞれの学習費総額は以下の通りです。(百円単位四捨五入)

公立 私立 金額差
幼稚園 23万4千円 48万2千円 24万8千円
小学校 32万2千円 152万8千円 120万6千円
中学校 47万9千円 132万7千円 84万8千円
高等学校(全日) 45万1千円 104万円 58万9千円

※上記は1年間あたり、子ども一人当たりの学習費総額

幼稚園(3歳)から高校3年までの15年間、全て公立に通った場合の学習費総額は約540万円。

全て私立に通った場合の学習費総額は1,770万円、全て公立に通った場合と比較すると3.28倍ですね。

「子どもに質の高い教育を」とは言っても、家庭の生計事情は様々。

たとえば、全て私立に通わなくても、幼児教育に関わる幼稚園だけでも私立を選ぶなど、親の考え方や予算によって検討してはいかがでしょうか。

また、小学校や中学校と比較すると、幼稚園時が1番金額差も少ないです。

最後に、当然ですが、公立学校だからといって質が悪い教育という訳ではないでしょう。

しかし、公立学校では標準的な教育。

私立保育園では、たとえば「英語」「運動」「海外へ修学旅行」など、子どもの可能性を高めるための教育がプログラムされている為「質の高い教育」と言えるのです。

幼児教育の中でも重要なポイントである「非認知能力」

また、近年では、幼児教育における「非認知能力」が着目されています。

非認知能力とは、IQとは関係なく、社会性、同調性、自制心など、多様な社会を生き抜くための力。

非認知能力が高いと、学歴・年収・雇用などの総合面で良い影響が期待されるといわれています。

なぜなら、非認知能力が高いということは、目標をもって努力を重ねたり、周りの気持ちを推し測って行動したり、社会や身近な人に感謝したりということができるということだからです。

そして、この「非認知能力」は雪だるま式に大きくなっていくという研究結果があります。

つまり、「非認知能力」を高めることは早ければ早い方が良いということです。

【参考】幼児教育で重視される非認知能力とは?必要性やのばすことによる将来のメリット

幼児教育を行う目的

では、どのような目的をもって幼児教育を行うのがよいのでしょうか。

それは、上述した「非認知能力」の発達を促す教育です。

実際に、欧米などの先進国では、単なる知的能力開発を目的とした教育よりも、非認知能力を伸ばす教育へとシフトしています。

具体的には、子供の頭を良くするためにドリルを短時間でミスなくこなさせるということよりも、与えられた課題に対してどのように取り組むとよりよい成果が得られるのかを自ら考え、友達や先生の意見も踏まえて解決させることです。

上記は、問題解決能力、コミュニケーション能力を高めることであるとも言い換えられるでしょう。

もちろん、ドリルをこなすことにも意味があります。

ただ、ミスなくこなしたという結果だけに着目するのではなく、どのようにしてミスをなくせたのか、そして時間を短縮できたのかという過程にも着目することが重要なのです。

幼児教育の最終的な目的は「子供に幸せな人生を歩んでもらう」その為に行う準備。

頭が良くて高い学歴を得ても、幸せでなくては意味がありません。

より良い未来、より幸せな人生のために自ら考え、行動できる人間力を培うことこそが、幼児教育に与えられた命題といえるでしょう。

【参考】幼児教育が性格面に与える影響。やる気、自信、協調性、忍耐力を育む。

【参考】共働き家庭の幼児教育。習い事に通わせる時間が中々取れない場合、どうすればいい?

まとめ

幼児教育は、日常では作り出せない特別な時間を親と子に与えることができます。

それは、家事に追われる時間ではなく、幼児教育を通して子供と1対1でじっくりと向き合う時間、また、年齢が大きくなると、子供の成長のために一名または複数名の教育者が特別に関わり合う時間です。

子どもが「自分をみてほしい」という願いは万人に共通するもの。

その願いに応える場が、幼児教育とも言えるでしょう。

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