保育士に向いていない? 大切な3つの資質や多い退職理由から見えてくる現場の課題

保育士の悩み

「2013年社会福祉施設等調査」によると保育士の離職者数は3.3万人で離職率は10.3%。

保育士は預かる子どもや保護者、そして同僚などコミュニケーションも大変でしかも体力仕事です。そんな中、保育士を続けられるか悩んでいる方も多くいます。

もし自分は保育士に向いていないと悩んでいるなら、ぜひこのコラムを読んでみてください。

現在の保育士を取り巻く状況を確認し、保育士に必要な3つの能力、体力、コミュニケーション能力、そして子どもと接することが好きであることについて紹介。さらに体力とコミュニケーション能力の身に付け方についても解説します。

保育士を取り巻く状況

少子高齢化が進み子供の数は昔と比べて減ってはいるものの、女性の社会進出が進み共働き世帯が増えたことなどで保育士の需要は高まっています。

ではそんな保育士を取り巻く状況はどうなっているのでしょうか、勤続平均年数、平均給与、保育士数などから考えてみましょう。

保育士の勤続平均年数

2015年に行われた「第1回 保育士等確保対策検討会」の資料「保育士等における現状」には保育士などの勤続平均年数が記載されています。

勤続平均年数
全職種 12.1
保育士 7.6
幼稚園教諭 7.8
看護師 7.7
福祉施設介護員 5.7
ホームヘルパー 5.6

引用:平成26年賃金構造基本統計調査

全職種の平均12.1年と比較して保育士は7.6年とかなり短いです。類似の仕事と比較すると、福祉施設介護員とホームヘルパーに比べ2年ほど保育士のほうが長いですが、幼稚園教諭と看護師ではわずかですが保育士が短い結果になっています。

保育士の平均給与

保育士の月給はいくらぐらいでしょうか? また他の職業と比べて金額は多いのでしょうか?

全職種 33万円
保育士 21.6万円
幼稚園教諭 23.1万円
看護師 32.9万円
福祉施設介護員 22万円
ホームヘルパー 22.1万円

引用:平成26年賃金構造基本統計調査

保育士の平均給与は21.6万円で全職種平均の33万より10万円以上少ないです。

さらに幼稚園教諭などの仕事内容が近い物の中でも一番低いです。

保育士の数の変化

保育所に勤務している保育士の数の推移を確認します。

一般社団法人全国保育士養成協議会 保育士等における現状

2004年(H16)から2013年(H25)の10年間で常勤・非常勤合わせて8.2万人増えています。内訳は常勤が4.9万人、非常勤が3.4万人ですが、割合で考えると常勤が約1.18倍、非常勤は1.62倍になっており、常勤の人数がまだまだ圧倒的に多いものの非常勤の割合がだいぶ増えているのがわかります。

登録されている保育士と勤務者数の変化

2013年(H25)時点での保育士登録者数は約119万人、その中で実際に勤務している保育士の数は約43万人です。登録してあっても社会福祉施設などで勤務していない「潜在保育士」は約76万人います。

2006年(H18)には保育士資格登録者数は約73万人で勤務者数が約36万人でした。2013年には登録者数は1.6倍で約45.6万人増え、勤務者は1.2倍で約6.7万人増えています。

この結果から保育士に登録している人数に対し、認可を受けた施設で働いている人の割合はそれほど増えていないことがわかります。

これらのデータから保育士の資格を取って登録する人の割合に対し実際に保育士として働いている人の数は少なく、また勤続年数も他の職業に比べて短いです。そしてその要因として給与の少なさが考えられます。

保育士に大切な能力

保育士にとって欠かせない能力は、体力とコミュニケーション能力、そして子どもと接することが好きであることの3つです。

それぞれどうして必要なのか確認してみましょう。

保育士に必要な能力1. 体力

保育士は子どもを抱いたり一緒に走り回ったりする機会が多いのでかなり体力を使う仕事です。そのため、体力があるのは優れた才能と言えます。

こんなことを言うと大げさに感じるかもしれませんが具体的なデータがそれを示しているのです。

保育士の健康とくらしに関する実態調査

2008年8月に熊本市内131箇所の公私保育所のうち私立の認可保育所の保育士計418名を対象にした「保育士の健康とくらしに関する実態調査」報告書には、以下のような記述があります。

  1. 「疲れやすい」:52.8%
  2. 「朝気分よく起きることができない・疲れが残っている気がする」:46.9%
  3. 「夜12時過ぎに寝ることが多い」:30.8%

このように慢性的な疲労状態に置かれている保育士が多いことがわかります。

参照サイト:保育士の健康とくらしに関する実態調査

保育士の健康障害と改善策

3つの保育園で計125人の保育士を対象に調査した「保育士の健康障害と改善策」によると55%の職員が腰の痛みを訴えています。

参照:2013 年度社会医学フィールド実習 :保育士の健康障害と改善策

また、免疫力の弱い子どもが多い保育園では様々な病気・感染症(インフルエンザ・溶連菌・手足口病・ノロウイルスなど)が流行るので日頃から体調管理にも気を配る必要もあります。

以上のことからもわかるように保育士はかなり体力を消耗するハードな仕事なので、体力があることは大きな才能と言えるのです。

保育士に必要な能力2. コミュニケーション能力

保育士は園児だけでなく、保護者の方や他の職員ともコミュニケーションが必要になります。

必要なコミュニケーション1. 園児

園児のちょっとした変化が体調不良や家庭での問題により起こされている可能性があります。

それを敏感に察知するためにもコミュニケーションをしっかり取り信頼を得なければなりません。

必要なコミュニケーション2. 保護者

保育士は保護者から大切な子どもを預かる職業なのでその分信頼関係が大切です。頑張ったことやできたことなどのポジティブな情報の共有だけではなく、ケンカをしたことや家庭でも取り組んでほしいことなどの言いにくいことも伝えなければなりません。

誤解を生まないように伝える必要があるので、その意味でもコミュニケーション能力は大切だと言えます。

必要なコミュニケーション3. 職員

保育園の運営を円滑にするためにも職員同士のコミュニケーションも大切です。

また場合によっては園児の情報を共有しなければならないこともあるので話しやすい関係を築いておく必要があります。

保育士は園児だけではなく保護者や同僚である職員と接する人たちすべてと円滑なコミュニケーションを求められます。

そのためコミュニケーションスキルも大切な能力です。

保育士に必要な能力3. 子どもと接することが好き

「子どもと接することが好きなのが能力なの?」と疑問に思われるかもしれません。

しかし体力とコミュニケーション能力が高くても子どもを好きでなければ保育士を続けていくことは困難です。

ただ子どもの遊び相手になるのではなく、子どもの成長・学びのために何ができるのか考えることができる人は保育士に向いているといえます。

保育士にとって欠かせない能力を確認してきました。

体力とコミュニケーション能力、そして子どもと接することが好きであること、この3つがある方は保育士に向いていると言えます。

3つの能力がそろっていないと保育士に向いていない?

体力とコミュニケーション能力、そして子どもと接することが好きな方は保育士に向いている理由を紹介してきました。

ではこの3つの能力がないと保育士に向いていないのでしょうか?

保育士は適正だけではやっていけない

3つの能力がないと保育士をやっていけないのかと言うと、決してそうではありません。

それを示すのが保育士の退職理由です。

保育士を退職する方の理由のトップ3

  1. 給料が安い:65.1%
  2. 仕事量が多い:52.2%
  3. 労働時間が長い:37.3%

退職理由で上位に入っているのはいずれも勤務条件です。

一方、3つの能力に関わる理由での退職は「職場の人間関係」が24.9%、「健康上の理由」19.3%、「保護者対応等の心労」17.9% 、そして「職業適性に対する不安」が22%と一定数あるものの労働条件のほうが圧倒的に多いです。

参考:東京都保育士実態調査報告書(概要版)

このように、勤務条件に関する理由で退職することがほとんどで「向いている・いない」の問題などでやめる人はそこまで多くはないのです。

ただし保育士の適性能力の1つ「子どもと接することが好き」がなければ、給料が安い、仕事量が多い、労働時間が長いという状況で働くモチベーションを維持できません。

つまり保育士をやるのに「子どもと接することが好き」であることが最も大切と言えるのです。

適性能力がない場合の対処法

体力、コミュニケーション能力に自信がない場合はどうすれば良いのでしょうか? 対処方法を考えます。

課題1:体力がない

子どもたち相手の保育士はまさに体力勝負です。とは言え、世の中の保育士すべてが体力があるわけではありません。

園での仕事は子どもたちが退園して終わりではなく、その後も様々な業務があり帰宅する頃にはグッタリするほど疲れてしまいます。

そのため仕事を終えてから体力作りのためにジム通いをしたり、ジョギングを毎朝したりというのも大変です。

このような状況でどうやって体力を付ければ良いのでしょうか?

体力作りの方法1: 日常の中で体力作り

ありきたりですが通勤を電車やバスから自転車に変えるとか、少し手前の駅やバス停で降りて歩くなどして日常生活の中で基礎体力作りを心がけましょう。

体力作りの方法2:休みの日にスポーツをする

気分転換も兼ねて休日にスポーツをするように心がけましょう。

疲れているから自宅でゴロゴロしていたいと思うかもしれませんが、適度な運動はむしろ疲れを取ってくれる場合があります。

体力作りも大切ですが、自己管理をしっかりして健康状態をキープすることも忘れないでください。

課題2:コミュニケーション能力が低い

保育士は他の接客業と異なり、毎日子どもや保護者と顔を合わせることになります。そのため信頼関係を築く機会は多くあるので責任感と自信を持って日々子どもと向き合うことが大切です。

そこで子ども、保護者、同僚、それぞれとのコミュニケーションを取る際に注意すべきポイントを簡単ですが紹介します。

まずは子どもとのコミュニケーションを取るポイント3つです。

子どもの場合I. 目線を合わせる

園児と話をするときは、かがんだりしゃがんだりして目線の高さを合わせてみましょう。

立ったまま話すと子どもを見下ろす形になり、子ども側からすると威圧感や圧迫感を感じてしまいます。そのため園児が安心して話せるように目線を合わせることが大切です。

子どもの場合II. 子どもにわかるよう理由を丁寧に教える

当然ですが園児たちは大人に比べると理解力がまだまだ未発達です。そのため何度言っても中々聞いてもらえず、つい頭ごなしに注意しがちになってしまいます。

実際には頭ごなしに注意しても効果が少なく、どうしていけないのかを時間をかけて丁寧に教えてあげましょう。

忍耐力が必要ですが、いけない理由を理解してくれると注意することも減っていきます。

子どもの場合3:小さなことでも「ありがとう」を言う

子どもに限らず「ありがとう」の言葉は大切です。特に子どもは自分が役に立っていると感じると自信を持てますし、喜びを感じてもくれます。

自分を喜ばせてくれる人には心を開いてくれるので、感謝の言葉を伝えると信頼関係を築きやすくなります。

子どもとのコミュニケーションはねばり強く、忍耐強く、そして優しくが大切です。

では次に保護者とのコミュニケーションにおける3つのポイントを紹介します。

保護者の場合1:子どもの様子は毎日報告する

親は離れている間、我が子がどうしていたかとても気になっています。

問題が無くても日々のちょっとした様子を伝えるだけでも保護者は喜びを感じ、信頼関係を築きやすくなります。

保護者の場合2:問題が起ったら正確に伝える

いくら注意をしていても保育園ではケガやトラブルは避けられません。

何か起こった時は保護者にその時の状況を正確に伝えましょう。原因がちゃんと理解できると保護者も安心できます。

保護者の場合3:落ち着いた会話をする

保護者が子どもを迎えに来る時間は保育園にとっても忙しい時間になりますが、慌ただしくしすぎると保護者に不安を与えかねません。

そのためどんなに忙しくても落ち着いて話をしてください。

子どもの場合もそうですが、安心感を与えることで保護者とも信頼関係を築きやすくなります。

保護者と基本的にコミュニケーションを取るのは子どもの送り迎えのわずかな時間です。この時間で信頼を得るのは難しいかもしれませんが、3つのポイントを意識して誠意を伝えていきましょう。

それでは同僚の保育士とはどのようにコミュニケーションを取ればいいか3つのポイントを紹介します。

同僚の場合1:保育園でも「ほうれんそう」は大切

他の職場同様に保育園でも「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」は重要です。大切な子どもを預かっているのですから、何か問題があったら必ず情報を共有しておきましょう。

同僚の場合2:相手への気づかいを忘れない

保育士は人間関係が重要な職場です。

円滑に仕事をするためにも年齢や立場に関係なく、謙虚な態度で相手に接しましょう。

ちょっとした気づかいの積み重ねがより良い関係を築いていきます。

同僚の場合3:声かけを忘れない

自分が何をしているかこれから何をするのかを常に声をかけ合いましょう。

保育中はどうしても子どもに意識が向いてしまいますが、保育士同士の声かけも重要です。お互いの動きが把握できているとスムーズに保育もできますし、保育士同士の信頼関係も生まれます。

保育園では子どもに意識を集中しなければならず、保育士同士のコミュニケーションが希薄になりがちです。コミュニケーション不足から問題が大きくなることもあるので注意しなければなりません。

このように体力やコミュニケーション能力は努力や意識をすることで高めることが可能です。

ところが「子どもと接することが好き」になる方法は感情の問題にもなるため誰にでもできることではないのです。

どうしても子どもと接するのが嫌なら転職を考えるのも一つの方法です。

逆に子どもと接するのがとても好きなら、そのために努力をして体力とコミュニケーション能力を身に付けることもそれほど大変ではないかもしれません。

保育士に一番大切な物

保育士に必要な3つの能力やその身に付け方について紹介してきました。体力とコミュニケーション能力は努力で身に付きますが、子どもと接するのが好きであることは努力ではどうにもしがたいです。

しかし見方を変えると子どもと接することが好きならば、保育士として何とかやっていけるとも言えます。

実際、保育士をやめた理由でも適正に関する不安は22%でそれほど高くはありません。

もし自分は保育士向きかどうかで悩んでいるなら、子どもと接することが好きかどうかを考えてみてください。その気持ちが強ければ足りない部分は努力で補っていくことは可能です。

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