近年の幼児教育では、「非認知能力」が重視されています。
単に「読み・書き・そろばん」などの基礎学力を身につけることに着目するのではなく、それらの習得を通して非認知能力を高めることが重要と言えるでしょう。
では、具体的に非認知能力とは何を指すのでしょうか。
認知能力との違いや幼児教育との関わり、また、非認知能力が将来に及ぼす影響についても紹介します。
幼児教育で注目されている非認知能力
幼児教育というと、一般的には英会話や読み書きなどの能力を高めることを思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、近年は「思考力を身につける」「創造性を育む」「協調性を高める」などを教育目標として前面に打ち出す幼児向けプログラムや教室が出てきました。
これらの教育では、多様な活動を通して子供の非認知能力を高めることを目標としています。
なぜなら、非認知能力は学校生活だけでなく、将来の就業や収入にも大きな影響を与えることが分かってきたからです。
認知能力と非認知能力の違い
「なんとなく聞いたことあるけど、そもそも認知能力との違いが分からない」という人も多いでしょう。
以下、認知能力と非認能力について違いを紹介します。
認知能力とは
認知能力とは、数がわかる、字が書けるなどの能力。
認知能力は一般的に、IQ(知能指数)やテストで測ることができるといわれます。
「認知能力が高い」「IQが高い」人は、一般的に「頭が良い人」と言われる人のことですね。
また、平成29年3月非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法についての研究に関する報告書(国立教育政策研究所、遠藤利彦)を参考にすると、認知能力は、知識・思考・経験を獲得する能力であり、獲得された知識に基づく解釈や推論も含まれるとされています。
非認知能力とは
非認知能力とは、社会性、同調性、自制心など、多様な社会を生き抜くための力。
認知能力とは違い、IQとは関係ありません。
上記で紹介した報告書を参考にすると、非認知能力は「社会情緒的コンピテンス」とも呼ばれ、思考・感情・行動のパターンであり、学習によって発達するとされています。
ひと昔前にIQに対比するようにEQという言葉が教育界で注目されました。
幼児教育に携わる人、子どもの幼児教育に興味のある人は「IQとEQ」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
EQとは、emotional intelligence quotient の略称であり、一般的には心の知能指数と呼ばれます。
EQの意味について、ブリタニカ国際百科事典による、EQの意味は以下の通りです。
EQとは,偽りのない自分の気持を素直に認め,心から納得できる判断を下す能力,不安や怒りなどの衝動をコントロールできる能力,窮地に陥っても自分自身を励まし楽観的な考えを維持できる能力,他人を思いやり共感できる能力,集団の中での調和と協調を重んじる社会的能力をいう。
【引用】ブリタニカ国際大百科事典
つまり、上記の通りEQは感情的な部分を指し、非認知能力は感情に加えて行動や思考も含めた能力であると解釈できるでしょう。
また、遠藤教授は、このように述べています。
「非認知能力」には、大きく2つの力があります。まず、自尊心、自己肯定感、自立心、自制心、自信などの「自分に関する力」。そして、一般的には社会性と呼ばれる、協調性、共感する力、思いやり、社交性、良いか悪いかを知る道徳性などの「人と関わる力」です。
つまり、認知能力とは異なり、非認知能力は数値化されないものの、社会生活において必要不可欠な能力であり、後天的に伸ばすことができる能力といえます。
非認知能力と幼児教育の密接な関係
非認知能力と幼児教育にはどのような関わりがあるのでしょうか。
まず念頭に置いておきたいのが、非認知能力は雪だるま式に大きくなっていくという事。
つまり、非認知能力を高めることは早ければ早い方が良いのです。
遠藤教授は、非認知能力について以下のように述べています。
非認知能力は「社会情緒的スキル」ともいわれ、乳幼児期に身につけておくと、将来に渡って幸せな生活を送ることができるといわれています。
非認知能力は、“心の土台”のようなものです。土台がぐらついていると、小学校や中学校で重たい教育を乗せられたとき、支えきれずに自分のものにできません。乳幼児期にしっかりと土台を作っていれば、きちんと積み上げていくことができる。そのような意味だと考えてください。
【引用】NHKエデュケーショナルすくコム
上記の通り、非認知能力は人生に通して重要な役割を果たす事。
また、幼少期からの働きかけが非認知能力を高めるためには有効であることが分かってきたのです。
幼児期は経験することの多くが初めてのことであり、好奇心に溢れています。
そして、学びを「楽しい」「おもしろい」と感じやすい時期。
この特性を生かして幼児教育を受けさせることで、意欲や主体性をもって学ぶことができます。
周りの適切な大人の働きかけによって、能力がぐんぐん伸びやすくなり、能力が伸びることで自信もつき、非認知能力が高まるという好循環が生まれるのです。
非認知能力を育むことによる将来のメリット
非認知能力は、学歴や年収、雇用などにも好影響を与えるという研究結果が出ています。
ノーベル賞受賞者であるシカゴ大学経済学者のジェームズ・ヘックマン教授は、非認知能力が将来にどのような影響を与えるか調査を行いました。(ペリー幼稚園プログラム)
40年に渡る追跡調査の結果。
3歳から4歳児の時点で質の高い就学前教育※を受けた場合、そうでない場合よりも、大学進学率や将来の持ち家率、所得も高かったことが分かったのです。
※・・・ここでいう質の高い就学前教育とは、専門的知識をもっている教師が、子供たちの自発性や創造性を高めるための活動を、定期的かつ継続的に実施することを意味します。
ヘックマン教授の研究についてもう少し詳しく見てみます。
この研究で、子供たちは幼少期から専門的な働きかけを受けました。
子どもがこの研究から経験した事・・・
- 困難に直面しても諦めることなく向き合うこと
- 他者と協力し忍耐力をもって解決の糸口を探ること
- 課題を解決することによって自信が生まれること
これらの経験を幼児期から繰り返し重ねることにより、「自分は頑張ればできる」「自分は周囲にとって大切な存在である」という意識が子供に根付きます。
すると、学業でも仕事でも新しい分野に挑戦したりチームの先頭に立って意見をまとめたりという課題にも積極的に取り組めるようになるのです。
周囲からの信頼も厚くなり、職場内だけでなくクライアントからの評価も高まります。
それらの結果が高所得につながるのです。
つまり、幼児期に専門的観点から教育を受けることは、将来にわたって総合面で良い影響が期待されるといえます。
幼児期から非認知能力を高めることで将来に良い影響を与える
かつてはIQや偏差値が重要視されてきました。
しかし、近年の研究から、数値化できない非認知能力の重要性がわかってきたのです。
そして、非認知能力を高めるには、乳幼児期からの働きかけが効果的であること、早期から繰り返し非認知能力を高める体験をさせることで能力がより伸びることが解明されました。
これらのことから、子供の知能開発だけに着目するのではなく、多様な教育的取組を通じて子供の自主性や社会性、自制心や協調性などを伸ばすことが幼児教育に求められているといえます。
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