幼児教育は3歳までが重要と言われている理由、保育士もぜひ知っておくべき

幼児教育について

「三つ子の魂百まで」ということわざがあるように、幼児教育は3歳までが重要と言われます。

なぜなら生まれてから3歳になるまでの期間で、人間の脳は驚異的な発達を見せるからです。

その発達は、知能、運動能力、性格まで影響を及ぼすといわれています。

では、3歳までの発達とは具体的にどのようなものでしょうか。

本記事では「3歳までが重要と言われる理由」について、遺伝や環境、脳の発達との関連性も踏まえて、いくつかの研究等もご紹介します。

0歳から3歳は脳の発達が著しいゴールデンタイム

人間の脳は、生まれてから3歳になるまでの間におよそ80%が完成するといわれています。

たとえば、同じ子どもでも0歳の時と3歳の時を比べると、その成長に周りの大人(特に久しぶりに会う人など)は驚かされますよね。

実際、3歳の時点で、脳の大きさ自体も既に大人の80%の大きさになるので、その成長は「目に見えて著しい」といえます。

「3歳までが重要」と言われる程の成長ですが、その間、子どもの中で具体的にどのような発達をしているのでしょうか。

以下、「成長に伴って脳のどの領域がどのような発達を見せるのか」「幼児期の脳発達が生涯にわたってどのような影響を与えるのか」を紹介します。

子供が3歳になるまでに脳の発達がほぼ完了する

東京大学大学院教育学研究科の多賀厳太郎教授によると、生後すぐの人間の脳は、あらゆる刺激に対して多くの領域が反応する仕組みになっているといいます。(参考:【研究室】研究室に行ってみた。東京大学 赤ちゃんの脳 多賀厳太郎)

しかし、成長に伴い、特定の刺激には特定の領域が反応するようにシナプス※が整理されるのです。

※シナプス・・・ニューロンと他のニューロンとの接合部分。神経と神経のつなぎ目とも言われる。

これは、シナプスの刈り込み(一部は残るが、一部は消えていく)といわれ、脳神経が生後すぐから減少の一途を辿ります。

しかし、シナプスを整理することで反応の精度を上げるためだと考えることもできるのです。

たとえば、分かりやすいのは母国語の修得。

シナプスの刈り込み例・・・

  • 日本で生まれ育った赤ちゃんが徐々に日本語(母国語)を覚え、1歳~2歳になる頃には日本語を使って自分の気持ちや見たものについて話せるようになる
  • 3歳時点になると日本語は聞き取れる・話せるけど、英語は聞き取れない(rやlの発音の違いなど分からない)
  • 逆に外国で生まれ育った子ども(日本語を知らない)は日本語特有の「っ」や「ん」を発音するのが難しい等

10種類の刺激に対して反応できるシナプスを維持するのか、あるいは5種類の刺激に対して反応できるシナプスに減少させるのかは、脳への刺激の量によって変化が起こるといえるでしょう。

0歳児の脳の発達について(一次感覚野の領域が最初に発達)

人間の脳は、一次感覚野(皮膚感覚、聴覚、視覚などをつかさどる領域と呼ばれる領域)が最初に発達します。

これは、皮膚感覚、聴覚、視覚などをつかさどる領域です。

この領域が発達することで、赤ちゃんは周りの環境を認識することができるようになるのです。

たとえば、赤ちゃんは色んなものを触って感触を確かめたり、口の中にいれて、物に対する情報収集をしていますよね。

大人から子どもへどのような働きかけが必要か。

この時期には、赤ちゃんへの語りかけやベビーマッサージ、絵本の読み聞かせや童歌を歌うことなど、赤ちゃんのお世話をしながら刺激してあげることが脳発達につながります。

たとえば、おむつ替えの際にも黙っておむつを替えるのではなく、「おむつを替えてすっきりしようね。服を脱ぐよ。さらさらのおむつで気持ちいいね。」などと語りかけることが大切です。

そうすることで、赤ちゃんは「おむつ」「すっきり」「服」「さらさら」などの言葉や感覚を理解できるようになるのです。

1歳~2歳は運動能力、脳神経が発達するが前頭葉はまだ未熟。

次に、1歳~2歳頃にかけて母国語や興味のある遊びなどに関する領域が発達すると考えられています。

1歳や2歳は、目で見たものや手で触れたもの、臭いで感じたものを言葉として表現するという手段を学ぶ時期。

したがって、周囲からの言葉がけが非常に重要になります。

他にも、この時期になると運動能力も発達。

それも脳神経が発達している証拠です。

たとえば、転ばないように歩いたり、スピードを変えてゆっくり歩いたり、タイミングを見計らってジャンプをしたりということも脳への刺激になります。

一方で、この時期に未発達なのが前頭葉です。

前頭葉は、論理的な考え方や我慢をするために重要な働きをする領域で、25歳頃に成熟するといわれています。

前頭葉が未発達ではあるものの、すでに自我が芽生えているのが1歳~2歳児。

そのため、自分の考えや主張が思い通りにいかないと苛立ち、気持ちを抑えきれなくなることがあるのです。

これがいわゆる「イヤイヤ期」と呼ばれる時期となります。

大人から子どもへどのような働きかけが必要か。

このイヤイヤ期にじっくりと向き合い、子供が自分の気持ちをコントロールする方法を見つけ出せるようにすることが重要です。

たとえば沢山おやつを欲しがる子どもに「おやつは1つ」と教えると、初めはうまくいかなくても、子どもは少しずつ約束事を守れるようのなります。

そして、子どもは我慢することの重要性や自制心が身につくのです。

3歳~5歳は大脳皮質の一部、運動の発達が著しい

3歳~5歳頃には大脳皮質の一部である運動野の発達が著しくなります。

たとえば、楽器演奏も運動の一種であるため、様々なスポーツに加え、ピアノなどの習い事もこの時期に適しているといえるでしょう。

よくスポーツ選手や演奏家の人達も「3歳から始めました」と言っている人、多いですよね。

上記で説明した通り、脳の発達のピークは年齢によって異なるのです。

しかしながら、どの分野においても3歳になるまでに発達の加速化が始まることを考えると、幼少期における働きかけが非常に重要であることがわかります。

運動能力は生後間もなくから発達し、6歳で完成に近づく

運動能力というと、一般的には走る、跳ぶ、投げる、泳ぐなどの能力をイメージする方も多いですが、楽器を弾くことも「巧緻運動」に関わるため、運動として捉えることができます。

運動能力も幼少時期からの働きかけが非常に重要であることがわかってきました。

ここで、アメリカの医学者・人類学者であるジャクソン・スキャモンによる「スキャモンの発育曲線」をご紹介します。

スキャモンは、子供が成長する過程で発育する分野を「一般型」「リンパ型」「神経型」「生殖器型」※の4つに分類しました。

※「一般型」・・・身体的な成長に関わる発育

「リンパ型」・・・免疫をつかさどるリンパ組織の発育

「神経型」・・・器用さ、リズム感に関わる神経系の発育

「生殖器型」・・・男女それぞれの生殖器の発育

その上で、年齢ごとにどの分野がどの程度成熟するかを曲線によって表しました。

生後間もなくから発達を見せるのが「神経型(器用さ、リズム感に関わる神経系の発育)」で、これは6歳頃には完成に近づき、10歳以降はほぼ横ばいになるということです。

スキャモンの発育曲線から、子供の運動能力や音楽に関する能力を高めるためには、早期からの働きかけが不可欠であると言えるでしょう。

子どもの学力や性格は、遺伝や環境から影響を受ける

世間では多くの人が、遺伝や環境から子どもが影響を受けると考えています。

たとえば「親が頭良いから子どもも頭が良い」「頭が良い人は恵まれた良い環境があったから」等。

大概の人の話の根拠は「自分の考えや経験」、想像や憶測ですが「遺伝や環境による子どもへの影響について」は、しっかり研究によって真実が明らかとされているのです。

以下、実際に行われた研究を基に「遺伝や環境は、子どもにどのように影響するのか」を説明します。

脳発達から見る子どもの性格について

幼児期の脳発達は子供の性格にどのような影響を与えるでしょうか。

ブリタニカ国際大百科事典における、性格の定義をご紹介します。

日常的には生れつきの品性という意味に使われている。(中略)パーソナリティと違って性格は知的側面を含まず,動機づけや方向づけに関連する意欲的側面をさす。また気質と違って必ずしも体質的な関連や生得的な傾向を強調せず,文化的,社会的条件への適応とも関連して,学習によって多少とも後天的な変化があるものとされる。

【引用】ブリタニカ国際大百科事典

このように、性格は周囲の環境によって変えることができることがわかります。

 学力や性格は遺伝だけで決まらない

近年、幼児期の過ごし方が生涯にわたって影響を及ぼすことが分かってきたため、幼児教育の重要性が盛んに謳わるようになってきました。

「学力や性格は遺伝によって決まっているのではないか」と考える方もいるでしょう。

ここで、慶応義塾大学で行動遺伝学を専門とする安藤寿康教授の研究をご紹介します。

安藤教授は、一卵性双生児(同一の受精卵から生まれた双子)と二卵性双生児(異なる受精卵から生まれた双子)を対象とした研究を行いました。

その結果、学力も性格もおよそ50%が遺伝の影響を受けることが分かったのです。

上記の研究結果から、子供の学力及び性格は遺伝の影響を受けるものの、子供を取り巻く環境も非常に重要であることがわかります。

環境は子どもの学力と性格にどのような影響をもたらすのか

環境は子供の学力と性格に、どのような変化をもたらすでしょうか。

環境が子供の学力や性格に与える影響について、シカゴ大学経済学者ジェームズ・ヘックマン教授が行った研究をご紹介します。

ヘックマン教授は「ペリー幼稚園プログラム」という就学前教育プログラムに着目し、卒園後も約40年間にわたって追跡調査を行いました。

調査内容は、アフリカ系アメリカ人のうち低所得者層にあたる家庭で育つ3歳から4歳児に「質の高い就学前教育」を受けさせることでどのような結果が生じるかというものです。

このプログラムを受講できた処置群の方と、プログラムを受講できなかった対照群を比較した結果。

「27歳時点での持ち家率」「40歳時点での所得」を比較すると、このプログラムを受講できた処置群の方が、プログラムを受講できなかった対照群よりも高かったことのです。

なお、ここでいう「質の高い就学前教育」とは、専門的知識をもっている教師が、子供たちの自発性や創造性を高めるための活動を、定期的かつ継続的に実施することを意味します。

この調査から分かることは次の2点。

  1. 同じような家庭環境にある子供でも、幼少期の教育環境が子供の学力や性格の基礎に変化をもたらす
  2. その後の人生において、向上心や忍耐力、協調性をもって物事に取り組むことができるようになる

上記のことから、子供の学力と性格は遺伝の影響を受けるものの、子供にとって最適な環境を作り出すことで、子供のもつ力を最大限に発揮させることができることがわかります。

幼児期という人生の土台作りの時期だからこそ、子供にとって最良の環境を提供することが重要なのです。

3歳までに子どもの能力を伸ばすには?

子どもの能力を伸ばす上で特に注目すべき点は、幼少期の子供にとって適切な学びの場。

つまり、適切な環境を提供すると自己肯定感、やる気、自信、協調性、忍耐力などの前向きな性格を培うことができるということです。

適切な学びの場は、幼稚園や保育園などの施設だけではなく、家庭でも家族の関わりがあれば学びの場と言えるでしょう。

また、このような前向きな要素を育むためには、子供の周囲にいる大人からの言葉がけが重要であることがわかってきました。

大人が話かけることによって子どもの能力を伸ばす、可能性を高める

文部省(現文部科学省)で「21世紀に向けた教育の在り方に関する提言」を発表した実績もある山本千紗子さんは、「乳幼児に話しかけること・褒めることの大切さ−子育て支援のためのエビデンスを求めて−」において以下のように述べています。

行動に対する否定語は、単に発話や行動そのものを抑止するだけでなく、その後の言語発達や学業成績にも影響すること、つまり、乳幼児へポジティブな言葉をたくさんかけることは、知能の発達を促し、言語習得以上の効果があることが明らかにされた。

すでに33か月以上児において「勝つこと」が課題達成で喜びを大きくし、嬉しいときに実験者や母親の承認を求めるような行動をとることが示され、褒めることは子どものポジティブな行動を促進することが明らかにされている。

褒めるというポジティブな評価は、人を伸ばす可能性につながり、「褒めて伸ばす教育」へ応用することは、意義が大きい。

【引用】乳幼児に話しかけること・褒めることの大切さ−子育て支援のためのエビデンスを求めて−

上記から、幼少期から前向きな言葉がけをすることが子供の能力を伸ばすことに繋がる事が分かります。

また、幼児教育の場を提供することで、様々な大人からの関わりが生まれ、子供の可能性も広がっていくのです。

「声をかける」「子どもの事を褒める」は、すぐに実践できる内容ですね。

3歳頃に自制心が変化、自制心が強い子は将来優秀になる可能性が高い

子供の自制心も3歳頃までに変化がみられることがわかっています。

スタンフォード大学の心理学者ウォルター・ミシェル教授が1960年代後半から1970年代前半にかけて実施したマシュマロ実験をご紹介します。

子どもの自制心を研究するためのマシュマロ実験・・・

  • ミシェル教授は、机と椅子だけがある部屋に4歳の子供を招き、マシュマロを1つだけ与える先生が戻るまでマシュマロを食べずにいられたら2つ目のマシュマロをあげると約束をして部屋を出る
  • 目の前のマシュマロを食べずに我慢し、2つ目のマシュマロを手に入れられる子供はどの程度いるのか
  • マシュマロを食べた子供と食べずに我慢した子供が将来どのように変化を見せるのかを検証

上記の研究は、将来のより大きな成果や報酬を得るために、目先の誘惑に負けることなく自分の衝動や感情をコントロールできるかどうかを試しています。

実験の結果、2つ目のマシュマロを手にしたのは、全体の3分の1ほどに留まりました。

驚くべきことは、追跡研究の結果。

マシュマロを食べた子供たちよりも、マシュマロを食べなかった子供たちの方が周囲から優秀と評価されることが多く、大学進学適性試験(SAT)の点数はトータル・スコアで平均210ポイントの差が出たということです。

このことは、4歳の時点で子供によって自制心にばらつきがあり、その差異による影響が生涯にわたっても見受けられることを意味しています。

自制心は日常的に鍛えられる。自制心の強い子は集中力高い

上記の実験で試された能力である「自制心」は、非認知能力と呼ばれる能力のひとつです。

※非認知能力とは・・・社会性、同調性、自制心など、多様な社会を生き抜くための力。

自制心は、「食事やおやつを食べる前に手を洗う」「食事のあとは歯磨きをする」「スーパーに行って買えるおやつは1つだけ」など、日常生活において約束を守ることから育むことができます。

また、マシュマロ実験を受けた子供たちの大脳を調べたところ、マシュマロを食べた子供たちと食べなかった子供たちとの間には、集中力に関わるとされる領域に差異がみられました。

言い換えれば、自制心の強い子供は、集中力が高い傾向にあるということです。

では、マシュマロを食べなかった子供たちはどのように我慢したのでしょうか。

多くの子供はマシュマロを見ないようにし、壁を見たり、手や髪の毛で遊んだりして気持ちを抑えるための行動をとっていました。

つまり、誘惑に負けないよう、他に興味をそそるものを見つけ、そちらに集中したということがいえるでしょう。

親として子供が3歳になるまでにできること

3歳までの子供の発育は目を見張るものがあります。

3歳までの時期をどのように過ごすかが、子供の人生の土台となるといっても過言ではありません。

この重要性は、2001年の世界子供白書にも以下のように記載されています。

子どもの人生の最も早い時期―出生から3歳になるまで―に起こることが、その後の子どもの生活や青年期の生活に影響を与える。(中略)子どもが3歳になるまでに脳の発達がほぼ完了する。

わずか36カ月の間に子どもは考え、話し、学び、判断する能力を伸ばし、成人としての価値観や社会的な行動の基礎が築かれる。

生後の何年かは子どもの人生にとって、非常に大きな変化の時期であり、長期的な影響をもつので、子どもの権利の保障は子どもの人生のスタートの時点で開始されなければならない。この大事な時期に子どものためにどのような選択をし、行動をするかが、子どもの発達だけでなく、国の前進に影響を与える。

【引用】2001年の世界子供白書

しかし、この重要な時期に、子供は自らの環境を選びぬくことはできません。

それができるのが親であり、親に与えられた課題ともいえるでしょう。

言い換えれば、子供の可能性を最大限に高めるために、子供にとって最適な環境を見出し、その環境を作り出すことが重要なのです。

このことから言えるのは、子供が集中して何かに取り組んでいるときや黙々と遊んでいる時には、親はそっと見守ることが重要であるということです。

子供に関わろう、より高度な遊び方をさせようと常に親が声を掛けると、かえって子供の集中力を切らす結果になりかねないのです。

3歳までが発達のゴールデンタイム

本記事で紹介した通り、生後間もなくから3歳になるまでに、子供の脳は著しい発達をみせます。

幼児期の脳発達は知能や運動能力、性格まで影響を及ぼし、まさに子供の人生の基礎を作り上げるといえるでしょう。

発達のゴールデンタイムであるこの時期に、適切な幼児教育の場を与えることが非常に重要となるのです。

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