最近ニュースでも時々取り上げられている保育士が子どもに虐待をする事件。
なぜ保育士が子どもに虐待をしてしまうのでしょうか、そして周りはなぜそれを防げなかったのでしょうか。
「虐待なんて酷い」と思っていても自分に中にある常識や保育観が誰かにとっては「それ虐待ですよ」なんてことがあるかもしれません。
保育士歴が長い方も保育士としての経験が浅い方も一度、虐待についての正しい知識を知っておきましょう。
本記事では虐待の定義や内容、虐待の防止策について紹介します。
保育士がまさか虐待・・・保育士虐待に関するニュース
保育園で保育士が園児に虐待をしているというニュースが話題になったのは今年の初め頃です。
このニュースが話題になった時、園長から日頃の適切な子どもとの関わりについて、話があったという保育園もあったのではないでしょうか。
最近はニュースなどでも取り上げられていませんが、話題になったニュースに対してネット上でも「私の保育園でも・・・」という声がありました。
保育士の虐待のニュースが世間から忘れられても、保育の現場で虐待が起こりうる可能性は消えません。
筆者の元職場の保育園でも似たような出来事があり、また保育士友達から聞くこともあるのでやはり珍しいことではないと感じています。
福岡市の保育士虐待 園児の口にセロテープを貼る・・・
平成31年2月16日付の西日本新聞によると、福岡市内にある認可保育園で20~40代の保育士8名が園児に対して「ぶた」「馬鹿」と暴言をはく、押し入れに閉じ込めるなどの虐待をしていたとのことです。
他にも以下のような不適切な行為があったと記載されています。
- トイレに連れていかずに尿を漏らすと叱る
- 長時間正座させる
- 子どもを驚かせて、その様子を見て笑う
- 口から出した給食を押し込む
- 園児の口にセロテープを貼る
- 怖い仮面を使って叱る
実際に保育士が園児に対して暴言を浴びせている録音音声があるようで、保育士の不適切な言動の裏付け、証拠となったようです。
その後保育園に特別指導監査が行われ、保育士らは停職1か月などの処分になりました。
不適切な言動とされていますが、保護者からすれば「それはもはや虐待です」と言われてもおかしくないでしょう。
保育園で大切なわが子が保育士から理不尽な扱いを受け、嫌な思いや悲しい思いをさせられたという辛い内容です。
保育士に対する処分が停職1か月で済むという事に驚きましたが、この保育士の人達はそのまま保育園で働き続けることはできるのでしょうか。
熊本県の保育士虐待 行き過ぎた叱責
平成31年3月26日付の朝日新聞によると、熊本市中央区の認可保育園「マリア幼愛園」の一部の保育士が、忘れものをした・歌を覚えられなかった園児に対して長時間の叱責をしていたとのことです。
他にも以下のような不適切な行為があったと記載されています。
- 特定の園児に給食の皿を投げて渡す
- いすから引きずり下ろす
- イライラして子どもにあたる
- 怒られたこ子どもを外に連れ出す
- 謝ろうとしても寄せ付けず、締め出す
平成30年7月時点で園長に保護者が「不適切な保育がある、改善してほしい」と苦情を申し立てていたが、園長の対応はその保育士に対して口頭で指導するだけだったと記載されています。
そして改善がみられなかったため保護者が子どもの洋服に録音機を忍ばせたことにより、保育士の園児に対する虐待の証拠がとれたようです。
他にも録音データの中には、以下のようなものが録音されていたようです。
泣きじゃくる幼児に「うるさい」「早く寝なさい」などと激しい口調で少なくとも20分以上責め続ける女性の声と「ドン」という大きな音が複数回録音されていた。
【引用】朝日新聞
保保護者懇談会で上記の「ドン」という音について、子どものことを押している音だったと説明があったとのことです。
ただ保護者が「保育園から帰ってくるとうちの子の様子が変なんです」というだけは保育士が園児に対して虐待をしているという証拠にはなりません。
やはりこうした録音データなどの証拠があることが重要になります。
そもそもどんなことしたら虐待?虐待に関する法律について
虐待のことが取り上げられたから「どんなことをしたら虐待っていうんだろう」と思った保育士もいると思います。
上記のニュースでも虐待と言っている箇所と不適切な言動といっている箇所がありますよね。
虐待について調べるということはあまりないかもしれませんが、この機会に虐待についてしっかり知識をつけ、周囲にも広めていきましょう。
虐待に関する法律
保育園の管轄は厚生労働省です。
そして根拠法としているのは児童福祉法になります。
児童福祉施設の設備及び運営に関する基準9条の2で児童に対しての法律が定められているのです。
以下、厚生労働省の児童福祉施設の設備及び運営に関する基準からの引用です。
第九条 児童福祉施設においては、入所している者の国籍、信条、社会的身分又は入所に要する費用を負担するか否かによつて、差別的取扱いをしてはならない。
(虐待等の禁止)
第九条の二 児童福祉施設の職員は、入所中の児童に対し、法第三十三条の十各号に掲げる行為その他当該児童の心身に有害な影響を与える行為をしてはならない。
(懲戒に係る権限の濫用禁止)
第九条の三 児童福祉施設の長は、入所中の児童等(法第三十三条の七に規定する児童等をいう。以下この条において同じ。)に対し法第四十七条第一項本文の規定により親権を行う場合であつて懲戒するとき又は同条第三項の規定により懲戒に関しその児童等の福祉のために必要な措置を採るときは、身体的苦痛を与え、人格を辱める等その権限を濫用してはならない。
上から簡単に説明すると園児に対して差別的な扱いをしてはいけない、園児に対して心と体を傷つけるような行為をしてはいけないという内容です。
第九条の三は施設長に対するものですが、保育士も同様に子どもに対して叱る時も叩く、蹴る、押すなどの身体的苦痛や子どもの人格を否定するようなことはしてはいけないという内容になります。
しっかり法律で定められていることなので、保育園で働く保育士も当然これをも守らなくてはいけません。
虐待の定義
子どもの心と体を傷つけてはいけない、人格を否定してはいけないと上記でありましたが、さらに具体的な内容を知っておいた方が良いでしょう。
厚生労働省児童虐待の定義と現状によると、児童虐待の例は以下の通りです。
身体的虐待 | 殴る、ける、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束するなど |
性的虐待 | 子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にするなど |
ネグレクト | 家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かないなど |
心理的虐待 | 言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるうなど |
上記は家庭での暴力に関する例ですが、これは保育園でも同じことです。
基準は先ほども触れた通り「子どもの心と体を傷つける、そして人格を否定する」こと全般、虐待と言われてもおかしくはないということになります。
なぜ保育士が子どもに虐待なんて・・・保育士と虐待の関連性
なぜ保育の現場で保育士が子どもに虐待をしてしまうのでしょうか。
子どもに虐待したくて、辛く当たりたくて保育士になりましたという人はいないでしょう。
どんな保育士でも本来は子どもが好きで保育士になったという人が多いはず、そして「子どもの楽しい時間を過ごしたい」と思っているはずなのです。
保育士の虐待問題は、保育士自身の人間性、適正という点では保育士自身にも問題はあります。
しかし保育士だけが悪いということではないでしょう。
新聞内でも触れていましたが、保育環境にも問題があるのです。
虐待が起こる、虐待が常習化している保育園では日常的にいつでも、どこでも虐待されてしまいます。
そして一般的な保育園であっても保育士がストレスを感じやすい時間帯や虐待をしてもバレなそうな場所があると、虐待に繋がってしまう可能性が高まるので、普段の保育中も意識をして保育して虐待を防止してください。
以下、詳しく説明します。
保育士の人数が子どもに対して少なすぎる
認可保育園の場合、保育士の配置人数が決められています。
児童福祉法第45条の規定(児童福祉施設最低基準)によると、保育士の配置人数は以下の通りです。
子どもの年齢 | 保育士の数 |
0歳児 | 子ども3人に対して保育士おおむね1人~ |
1~2歳児 | 子ども6人に対して保育士おおむね1人~ |
3歳児 | 子ども20人に対して保育士おおむね1人~ |
4~5歳児 | 子ども30人に対して保育士おおむね1人~ |
そして以下のようなことを加えられています。
- 定員が90人以上の施設にあたってはこの定員のほかに1人以上の保育士を配置しなければならない
- 常時2人を下回ってはならない
たとえば1~2歳児クラスに子どもが20人いた場合は保育士は4人程必要ということになりますね。
では冒頭の福岡市の保育士虐待が問題となった保育園では平成31年1月時点で園児が254人に対して29人となっており、詳しい配置まではわからないが国も配置基準ギリギリだったと言います。
国の基準を守った人数でも十分とは言えず、一人にかかる負担が多いのに、その負担が増えるとストレスを感じてしまうのも仕方ありません。
ストレスを子どもに当たるのは絶対にいけませんが、保育士にとっても過酷な労働環境だったのでしょう。
虐待の起こりやすい時間帯とは
保育士が国の規定の人数いたとしても、保育中「人手が足りないな」「余裕がないな」という時間帯があります。
そういう時に保育士は余裕がなくなり、子どもに対してきつく当たってしまう可能性が高くなるのです。
忙しい時間帯の時は保育士同士で連携して一人の負担が軽減されるように気配りをしたり、子どもと保育士が二人きりになることは避け、二人きりになる時でもそれを監視の目は緩めてはいけません。
一緒に働く保育士を監視の目で見るのは心苦しいかもしれませんが、一緒に働く仲間だからこそ間違ったことをしないように見てあげましょう。
保育士は1日中急がしいですが、最もストレスがかかる時間帯はおやつや給食の時間、午睡の時間です。
たとえば食事中に考えられる虐待は「嫌いな食べ物を無理やり食べさせる」「食事を与えない」などがあります。
そして午睡中は日中活動、そして食事の介助や片付け等の疲れが溜まり、午睡時間は保育士の疲労感もピークに達するのです。
冒頭の熊本県のニュースでも午睡中の様子が取り上げられていましたよね。
子どもがずっとふざけて早く寝てくれない、ずっとお喋りを辞めないなどの行為があるとキレてしまい、子どもにきつく当たってしまう可能性が高まります。
虐待が起こりやすい場所とは
虐待しやすい時間帯の次は虐待の起こりやすい場所は以下の通りです。
- 密室の部屋の中
- 人があまり出入りしない部屋
- トイレ
上から説明すると密室の部屋というのは遊戯室、ホールのような大きな部屋ではない、それぞれのクラス、保育室のことです。
「虐待はおかしい」という感覚を持った人が沢山いる保育園の場合、虐待してしまう保育士は当然大勢の前を避けます。
保育士1人で虐待する可能性が高いのは、密室(各保育室や器具庫など)やトイレの個室です。
たとえばそこで保育士が子どもを叩いていても、つねっていても誰もわかりません。
年齢が幼ければ、その出来事を他の保育士や自分の嫌にも話せないのです。
また複数担任でも周りが「おかしい」と気づけないくらい感覚が歪み、虐待行為が常習化していていることもあります。
そういう場合は保育室内でも複数人の保育士から、特定の子どもにに対して虐待が起きてしまうのです。
虐待を防ぐ対処法 職場の環境作りを徹底しよう
園長や主任だけでなく現場で働く保育士一人ひとりの意識によって虐待を防ぐことができます。
虐待のケースを考えた場合、新人が子どもに対して不適切な言動があった場合、ベテラン保育士や先輩保育士は注意しやすいですが、立場が逆ならどうでしょうか。
新人保育士が「今のって虐待?」「今のは非常識だ」と思ってもベテラン保育士に向かって注意するのは難しいでしょう。
注意できるのが1番良いのですが、それは難しい場合は自分だけでも流されないでください。
他の保育士は感覚が歪んでしまって気づかないかもしれません。
一般的に見たらその言動が虐待と思われてしまうこともその保育園では普通、保育観として受け入れられてしまっているケースもあるのです。
以下、虐待を防ぐ方法について紹介します。
虐待を許すような雰囲気をつくらない
たとえば一人の保育士が「〇〇ちゃんって本当にブサイク。可哀相に。」と子どもに向かって直接、嫌味を言っていたとします。
あなたはその場にいたら、どういう反応をしますか。
その保育士がした言動、行為が間違っていると思うなら絶対に笑ってはいけません。
「それは辞めた方が良いです」と直接言えなくても、その行為を許すような雰囲気を作ってしまったらあなたも同罪になってしまいます。
人数が少ないからと言って子どもの安全を蔑ろにしない
「本当は保育士が二人ついた方が良いんだけど・・・仕方ないか」と思っていると、子どもの大怪我に繋がってしまうのです。
そして虐待をしてしまうような状況を作り出してしまいます。
保育士の数が足りなくて子どもの安全が保障できない場面というのは、日常的にも結構ありますよね。
まずはその様子や怪我や虐待に繋がるリスクについて主任や園長に相談して、人を新しく雇うことができない(または求人を出していてもなかなか人が入って来ない)場合でも、今いる保育士だけでなんとか安全にできるように保育士全員で体制を考えていくことはできるでしょう。
子どもと保育士を2人きりにさせることがないようにする
子どもと保育士を2人きりにするという場面が、1日のうちにも結構ありますよね。
先ほど触れた通り、トイレの個室や密室の空間に二人きりにするというのはあまりよくありません。
たとえば赤ちゃんを寝かしつける時に朝寝の部屋、夕寝の部屋と小さく仕切られている部屋があり、午睡付きの先生と子どもだけで過ごす場合もあります。
その場合は45分交代、または30分交代にして長い時間1人の保育士が子どもにつくことがないように配慮をした方が良いです。
子どもの悪口や親の悪口を言うことが常習化している
子どもに向かって「ブサイク」「早く帰れ」「消えろ」などの暴言を吐くことが当たり前な雰囲気、暴言を吐いている人に対して他の職員も何も思っていないというのは保育園の雰囲気、また保育士の感覚がおかしくなっています。
年齢に関係なく子どもに対して上記のような暴言を吐くというのは精神的暴力になるので、これが常習化しているというのは深刻な問題です。
1人がおかしいと思っても「あの人の発言って・・・」と相談できる人もいない場合は、以下で紹介する専門機関に相談することをお勧めします。
もし虐待の現場を発見してしまったら
虐待を発見した場合、通告するのは義務と言われています。
義務というのは法律上そして道徳上やらなくてはいけないことです。
もし保育の現場で虐待を発見してしまったら、直接注意して保育士間でトラブルになってしまうよりも、上司に指導してもらったり、外部の人に力を借りるのも良いでしょう。
「どうしよう」と悩んでしまうかもしれませんが「義務」と考えると思い切って行動できるのではないでしょうか。
まずは園長や主任に相談
周囲の保育士に確認したいところですが、安易に人に話してしまうと噂が広まり、ややこしいことになってしまいます。
そのためまずはその現場を見たら園長や主任に相談しましょう。
また子どもに虐待している人が堂々とやっている場合は、園長が周囲で働く保育士に確認をとり情報を集めることができますが、隠れてしている場合は発見しづらいですね。
あなたの証言ですぐに園長や主任が動いてくれるかはわかりませんが、保育園によっては園内に監視カメラを設置しているところもあるので確認してもらいます。
監視カメラを設置していない場合、また音声の方が証拠となり得る場合はスマホなどをポケットに入れて録音するというのも一つの手です。
189に電話する
189は児童相談所全国共通ダイアルです。
うやむやにしてしまうと次に被害にあってしまう子がいると助けられないので、園長や主任が対応してくれない場合は、189に電話しましょう。
厚生労働省の児童相談所全国共通ダイアルについてによると、189の電話をかけると近くの児童相談所にかかるようになっているとのことです。
また通告・相談は匿名ですることができるため、その内容に関する秘密は守られます。
また厚生労働省の平成30年度全国児童相談所一覧で全国の児童相談所の電話番号が確認できるので、一度、あなたがお住まいの地域の最寄りの児童相談所を確認してみてください。
まとめ
虐待について考えると気持ちが重たくなりますが、それでも子どもと関わる限りは回避することはできないものです。
保育園では様々な保育観を持った保育士がいます。
子どもに対して怒って、泣かせて言うことを利かせようとするのは間違いです。
いかに気持ちよく、子どもから「やってみようかな」「やりたい」と思って子どもを目的に促すというのが保育士のプロです。
現場で虐待を見かけたときは知らないフリをせずに、問題解決のために動き出しましょう。
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