【保育士がクビになる理由】解雇の種類や不当解雇について詳しく紹介

保育士の労働条件

保育士は会社員からイメージかかけ離れているため「リストラとは無縁」と思われがちですが、実際は保育士であっても、懲戒解雇(クビ)を受ける可能性は、他の会社員と変わりありません。

社会人として、また、保育士として働いていると「どんなことをしたらクビになるんだろう」と疑問に思ったとしても、なかなか誰かに聞くまでには至らないですよね。

そもそもクビになる前に離職率が高い保育士業界ですが、どのようなことをすると「クビ」の対象になるのでしょうか。

本記事では「具体的にどんなことをしたら、保育士はクビになるのか」、解雇の種類について、詳しく紹介します。

クビ(解雇)の種類

クビとは、会社員であれば会社の上司から、保育士であれば保育園の園長や事業主から「一方的に言い渡される解雇」を意味します。(労働契約の解除)

基本的に、労働者は労働基準法によって、手厚く守られているので、そう簡単には解雇されませんが、「何をしても解雇されない」という訳ではないのです。

厚生労働省の労働基準法解雇編を参考にすると、解雇には3種類あります。

解雇 内容
普通解雇 整理解雇、懲戒解雇以外の解雇。労働契約の継続が困難な事情があるときに限られる。
整理解雇 会社の経営悪化により、人員整理を行うための解雇。
懲戒解雇 従業員が極めて悪質な規律違反や非行を行ったときに懲戒処分として行うための解雇。

以下、それぞれの解雇について紹介します。

普通解雇

普通解雇の例は、以下の通りです。

  1. 勤務成績が著しく悪く、指導を行っても改善の見込みがない時
  2. 健康上の理由で、長期にわたり職場復帰が見込めない時
  3. 著しく協調性の欠けるため業務に支障が生じ、改善の見込みがない時

参考:厚生労働省

上記のような理由で解雇する場合は「普通解雇」と呼ばれます。

たとえば、保育士の場合で言うと、同じ失敗を繰り返し、何度も指導されているのに直らない。保育中は注意不足で何度も子どもに怪我をさせてしまうという人がいるとしましょう。

そういった場合は、上記の1に該当し、園長から「あなたは保育士に向いていない、著しく能力が不足している」などと指摘され、解雇の流れになった場合は、普通解雇です。

ただ普通解雇の解雇要件は厳しく、保育園が簡単に行うことができるものではありません。解雇には「客観的に合理的な理由」がなければならず、解雇された保育士が訴えた場合に「不当解雇」と判断されるケースも少なくありません。

整理解雇

整理解雇とは、会社の経営悪化により、人員整理を行う解雇です。

整理解雇する場合は、以下の4つの条件を満たす必要があります。

  1. 整理解雇することが客観的に考えても必要な時
  2. 解雇を回避するために最大限、努力を行う
  3. 解雇の対象となる人選の基準、運用が合理的に行われている
  4. 労使間で充分に協議を行う

参考:厚生労働省

整理解雇の原因を簡単に言うと、保育園の経営状況の悪化です。

2019年、経営悪化が原因で閉園した保育園のニュースは、1月に葉県の認可外保育所、3月に神奈川県川崎市の認可外幼稚園、そして、12月に東京都世田谷区の認可外保育園、合わせて3件ありました。(参考:Yahoo!ニュース

たとえば、2019年12月3日「経営が成り立たず倒産、保育園がつぶれた」という、世田谷の保育園のニュースでは、保育園の実態として慢性的な給料の遅れや残業代未払い、休憩も取れないなどの労働環境だったと報道があります。

世田谷の保育園は「働く保育士を即日解雇する」というような内容でしたが、さすがに「即日解雇」というケースはあまりありませんが、こういった解雇があったのは事実。

整理解雇は、保育園に子どもを通わせている保護者、また働いている保育士に対して、かなりの不利益な解雇です。

懲戒解雇

もう一つが懲戒解雇にあたります。

懲戒解雇は、従業員が極めて悪質な規律違反や非行をを行ったときに懲戒処分として行うための解雇です。

保育園側は、懲戒解雇になる要件を就業規則や労働契約書に具体的に明示しておく必要があり、多くの場合、就業規則や労働契約書に「労働者がどんなことをした場合に解雇になるのか」が記されています。

保育士がクビ(解雇)になる理由

たとえば「気に食わないからクビだ」などという理由で解雇する場合は、当然不当解雇になります。

不当解雇は法律で禁止されているため、正当な理由がない限りはクビにされることはないのです。

保育園に限らず行われているというのも事実ですが、労働者側が訴えたことで不当解雇と判断されたケースは少なくありません。

では、どのような理由であれば、解雇になってしまうのでしょうか。

以下、保育士がクビなる理由として考えられる理由を挙げていきます。

複数回の無断欠勤をした

連絡なしに仕事を休むことを無断欠勤と言います。

無断欠席は1度しただけでも、信頼を失ってしまう可能性が高いですが、無断欠席を1度したからと言って、解雇になる可能性は少ないでしょう。

また、1度の無断欠席で解雇にしてしまうと、不当解雇にあたる可能性の方が高いです。

しかし「不当な解雇にあたる」とはいえ、保育園の仕事上、理由なし・連絡なしで休むことは運営に大きく影響する為、何度も無断欠勤をするのは当然NG。(社会人としてもやってはいけません)

保育園では子どもを安全に保育できるように、子どもの人数に合わせて保育士を配置しています。

特に、認可保育園は人が少ない状況で保育すると、役所の指導対象になる場合もあるため、他の会社に比べて厳しいということを覚えておきましょう。

寝坊をした・遅刻をした

寝坊して遅刻をすると、保護者や子ども、保育士に対しても迷惑がかかるためクビの要因となりえます。

しかし、1、2回の遅刻で解雇とされることは基本的にありません。もしそれで解雇が行われたら不当解雇にあたる可能性が高いです。

基本的には、数回の遅刻した後、注意や指導があり、軽度な懲戒処分。

そして、その後も指導しているにも関わらず改善が見られず、繰り返された場合に最終的に解雇という流れになります。

ちなみに、筆者が以前勤めていた保育園では、早番勤務の日に寝坊してクビになった人がいましたが、寝坊をしてクビになってしまった人は、他にも複数のクビになり得る原因があった、もしくは不当解雇の可能性がありますね・・・。

病気やけがなどによって就業が困難になった

最初に説明すると、病気やけがなどによって、就業が困難になった場合。

解雇されるかどうかは、病気の原因や病気による欠勤の必要性、病気意外の解雇理由、就業規則の記載、病気の治療が不能かどうか・・・など、多方面からみて「解雇が妥当かどうか」判断されます。

その中でも、以下のような場合は解雇になる可能性が高いです。

  1. 労働者が、精神的・身体的の障がいにより業務が耐えられなかった場合(就業規則に記載していなければならない)
  2. 個人的な理由で怪我をして治る可能性がない場合(休業しても明らかに治らない)
  3. 労災で保育園が保育士に対して、打切補償をした場合

上記の3番。労災であっても、業務が原因で怪我や病気になった場合、それが理由で解雇するのは禁止とされています。

しかし、労災であっても、治療期間が3年以上となる場合は、保育園事業主が保育士に対して「打切補償」を支払うことで、解雇が有効となるのです。

他にも、病気や怪我などが理由による解雇は、状況や場合によって解雇されないケースもあります。

たとえば、病気や怪我などの状況で以下の理由で解雇された場合は、不当解雇です。

  • 業務が原因で、保育士が病気や怪我をした場合
  • 病気や怪我をしていても業務に支障がない場合
  • 妊娠・出産・整理など病気とは言えな場合

上記の理由で解雇された場合は間違いなく、不当解雇なので、もしも自分が上記の理由で解雇されそうな時は証拠をもって(解雇理由証明書など)弁護士などの窓口に相談しましょう。

ミスを繰り返すなど著しい能力不足

保育士として著しく能力が不足していて、改善の見込みがない、辞めてもらう以外に方法がない労働者はクビになる可能性が高いです。

保育士の場合、子どもの安全にかかわるような部分や保護者の信頼を失うような部分でミスを何度も繰り返すと、それを理由にクビとなるケースが多いでしょう。

ただ「もっと使える保育士を雇いたいという理由で解雇」するのは、裁判所が認めないと言われているので、解雇される理由や解雇を告げられる時の言葉は、注意して聞いておく必要がありますね。

会社の経営難、縮小

会社の経営難、縮小とは、事業を行っている会社が保育園事業から撤退するという事。

保育園の受け入れ人数が少ない為、保育士の人数が余っている場合などに在り得る解雇です。

会社の経営難や縮小が理由で、解雇される場合は、またいちから働く職場を探さなければいけません。

また、子どもを預けている家庭も、新しい子どもの預け先を探さなければならないのですが、待機児童が多い地域の場合、新しい預け先を見つけ出すのが困難。

そのため、事業主としては1番避けるべき解雇、また、雇われている側である保育士や子どもを預けている保護者にとっても1番避けて欲しい解雇でもあります。

経歴詐称や犯罪行為、セクハラやパワハラ

たとえば、2019年8月1日の東京新聞朝刊東京すくすくによると、以下のような解雇例があります。

園児に「死んでしまいなさい」と暴言を繰り返し、真岡市認定こども園で教諭2人解雇へ

この場合、園児に対しても暴言、暴言による信頼の損失がクビの要因です。

上記の他にも、職務経験がないのにあると偽ったり、資格保有の有無を偽ると、当然、懲戒処分になります。

また、仕事とは関係ない部分でも、懲戒処分になることがあります。

具体的な例は、以下の通りです。

  • 犯罪行為
  • 飲酒運転
  • 傷害
  • 窃盗

上記の他にも、セクハラやパワハラもひどく、改善されない場合はクビになる可能性が高いです。

保育士をクビにする場合は、予告が必要(解雇予告)

たとえば、マンガの中では「お前は明日からクビだ」(即日解雇)といった場面がありますが、現実の世界でそんなことがあったら大変。

事業主や園長が、保育士を解雇する場合、30日前までに解雇の予告が必要です。

「解雇予告」は口頭でも良いですが、後々トラブルになってしまう可能性があるため、解雇する日と具体的な理由を明記して「解雇通知書」を作成するのが望ましいとされています。

(クビを言い渡される保育士の方は、勿論、解雇予告は望んでいませんが・・・。)

保育園側が書面を作成してくれない場合は、保育士から書面の作成を求めることも可能。

予告を行わずに解雇する場合は、解雇予告手当として、最低30日分の平均賃金を支払わなければならないと定められています。

保育士のクビに関するQ&A

上記の説明を読んでも「いまいちピンとこない」「不安が残る」という人は、以下の保育士のクビに関するQ&Aを読んでみてください。

クビに納得がいかない場合はどうすれば良いのか(不当な解雇)

「これは明らかに不当解雇だ」と納得がいかない解雇だった場合。

保育園側が発行する「解雇理由証明書」という、解雇される理由が記載された書類を持って、弁護士などの窓口に相談しましょう。

ただ書類をくれるのを待っていても、解雇理由証明書をくれるとは限らず、自分から保育園側に請求する必要がある場合が多いです。

労働基準法第22条により「労働者が解雇の理由について証明書を請求した場合には、会社はすぐに労働者に証明書を交付しなければなりません」とあるので、保育士は保育園に対して、解雇理由証明書を請求する権利があるので、臆さず請求しましょう。

試用期間はクビにされやすい?即日解雇もあり得る?

「試験期間はクビにされやすい(労働者の立場が弱い・権利がない)」と勘違いしている人、実は多いのではないでしょうか。

試用期間とはいえ、正当な理由がなければ解雇はできません。

なお、試験期間が14日以内であれば解雇予告は不要ですが、14日を過ぎた場合は試用期間として設定されていても、30日前の予告もしくは日数分の賃金支給が必要になります。

クビになった場合の退職金について

先ほども触れましたが、解雇の種類によって、退職金の有無は左右されます。

解雇種類 退職金の有無
普通解雇 支払われる
懲戒解雇 支払われない

上記の表にもある通り、普通解雇の場合は、退職金は支払われます。(会社都合として金額を算出)

懲戒解雇の場合は、退職金は支払われないのが一般的

先ほども紹介したように、懲戒解雇になる理由は犯罪行為や非行などが理由のため、当然と言えば当然ですね。

※懲戒処分の中には、懲戒解雇以外に諭旨解雇がある(懲戒解雇を避ける温情措置)、諭旨解雇の場合は全額もしくは減額された後、一部支給されることが多い

公務員保育士はクビにならないの

「公務員はクビにならないんでしょ」と思っている人もいるかもしれませんが、公務員保育士も当然、違反をした場合は解雇されます。

公務員保育士であっても、先ほど触れたような飲酒運転や事故などの違反行為をした場合は懲戒免職、つまりクビになるのです。

また、公立保育園では正規職員だけでなく、非正規雇用で働く保育士もいます。

非正規雇用の職員には、契約期限があるので、期限が来ても更新されない場合に職を失なってしまうのです。

クビになったその後は、どうなるの?保育士としては働けない?

前職でクビになったからと言って、2度と保育士として働けないということではありません。

とはいえ、再就職の際に不利になる可能性はあります。

経営悪化によるクビなど本人に責のない場合は関係ありませんが。能力不足や就業規則違反による懲戒解雇であった場合、なかなか採用しようと思ってくれません。

言わなければばれないのではないかと思うかもしれませんが、そうもいきません。

転職活動をする際、面接では必ずと言っていいほど前職の退職理由を聞かれます。その面接時に解雇された事実を隠してしまうと「経歴詐称」として採用の取り消し、また、事実が分かった時点で懲戒解雇される可能性があるからです。

まとめ

できれば、経験したくはない「クビ」ですが、もしもの時のために知識があると便利です。

もし、いきなり解雇された場合にも「これは不当解雇かもしれない」と冷静に判断できる知識があれば、これからの人生を大きく変えることが出来ます。(不当解雇であっても、普通解雇扱いなら自分が不利になってしまう為)

まずは、自分が勤めている保育園の就業規則または労働契約書で「どんなことをした場合に解雇されるのか」確認してみましょう。

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