「潜在(せんざい)保育士」という言葉、聞いたことありますか。
現在の待機児童も問題を解決するにあたり、大きな期待を背負っているのが潜在保育士です。
潜在保育士の力があれば、「子どもを預けたくても預けられない」と困っている親たちを助ける事ができます。
本記事では、潜在保育士について詳しく紹介していきます。
潜在保育士とは
冒頭でも述べた通り、近年の待機児童の問題を解決する鍵を握っているのです。
厚生労働省のホームページで「子どもたちの笑顔の為に保育士のみなさん、あなたの力が必要です!」と呼びかけている程。
潜在保育士とは、以下の2つに該当する保育士を指します。
- 資格を取得した後、1度も保育士として働いた事が無い人
- 資格取得後、保育士として勤めた事はあるが、現在勤めていない人
上記の1の通り、そもそも学校等で資格を所得しても、保育園に就職しないという保育士が沢山います。
以下、厚生労働省「保育分野における人材不足の現状」からの引用図です。
保育士養成施設(学校)に通った人達は卒業後51.7%の保育園に勤めていますが、その他を含め48.3%の人は保育園に就職していません。
そして平成27年一般社団法人全国保育士養成協議会保育士等に関する関係資料を参考にすると、保育士として働く人も10.3%、つまり10人に1人は辞めてしまいます。
様々な理由から、保育士資格を持っていながら保育士として働く事を希望しない人、保育士として働いても辞めてしまう人がいる為、潜在保育士が存在するのです。
潜在保育士の割合・人数
平成27年一般社団法人全国保育士養成協議会保育士等に関する関係資料を参考にすると、潜在保育士は70万人以上と言われているのです。
令和元年9月時点、更に増えている可能性もありますね。
以下、厚生労働省の潜在保育士の実態についてを参考に、それぞれの項目について紹介します。
潜在保育士の年齢で1番多いのは40代?
厚生労働省の調査結果によると、潜在保育士の年齢別割合は以下の図の通りです。
上記の図からわかる通り、40代が32%、50代が28%、30代が19%、20代が9%です。
70万人いる全ての潜在保育士の状況ではなく、厚生労働省の調査に答えた潜在保育士のデータではありますが、割合的には40代が1番多い結果となっています。
潜在保育士75%は配偶者あり、69%は子どもがいる
厚生労働省の調査によると、潜在保育士の75%は配偶者あり、69%の人は子どもがいるという結果がでています。
子どもの人数は、就業している保育士同様2人。
しかし、割合的には潜在保育士の方が、未就学児の割合が高いです。
子どもがいる潜在保育士に対して、アンケート調査の中で「日中、誰が子どもを保育をしているか」という質問に「あなた」(潜在保育士自身)と答えた人の割合が69.2%でした。
近年、待機児童も問題もあるため「現場復帰したい」と思う保育士がいても、地域によっては(待機児童が深刻な地域等)、子どもを預ける事が出来ない状況が考えられます。
地域によっては「保育士として働く場合は点数が貰える」等、保育士として働く人の子どもを優遇して保育園に入れるというと取り組みを行っている自治体もありますが、「保育士だけずるい」「皆働いているのに平等じゃない」という声が上がり、なかなか難しいようです。
「自分の子どもを保育園に預ける事が出来ない」事が、潜在保育士の現場復帰出来ない理由の一つと考えられます。
潜在保育士が復帰しない、できない理由
先ほど厚生労働省の調査を参考にすると、潜在保育士が保育士として働かない理由は、以下の通りです。
潜在保育士が現場復帰できない理由
- 求職しているが、条件に合う求人がない(29.6%)
- 就職に不安がある(26.4%)
- 就職する必要性を感じない(24.5%)
- 無回答(19.4%)
上記の結果から条件に合う求人があり、就職に対する不安がなくなれば約60%の潜在保育士が保育士として働く事ができるという事ですね。
以下、更に詳しく潜在保育士が保育士として就職するにあたり感じる不安要素について、紹介します。
家庭との両立が難しい(個人状況)
保育士として就職する不安要素について、「家庭との両立」と答えた潜在保育士の割合が48.6%です。
たとえば、保育士の勤務体制はシフト制。
毎日違う時間に出勤、退勤しなければいけないので、家事にも支障が出てきます。
既婚者の人であれば、旦那さんの朝ご飯や夜ご飯の準備が出来なかったり、子育てをしている人であれば、「子どもが学校に行く前に家を出なければいけない」「子どもが家に帰ってきても保育する事が出来ない」等。
子どもの年齢が中学生や高校生なら良いですが、未就学児や小学生の低学年の場合、母親が毎日違う時間帯で家にいたり、いなかったりする事によって生活が不安的になってしまいます。
その為、「家庭と仕事の両立が難しい」と感じてしまう事が考えられます。
自身の健康・体力への不安(個人状況)
保育士として就職する不安要素について、「自身の健康・体力」と答えた人が45.5%です。
保育士の仕事は体力勝負。
保育士は、重たい遊具やテーブルを運んだり、泣く子どもを抱っこしたり、子どもの安全を常に見守りながら、1日中休む暇なく(休憩時間も休めない)働き続ける仕事です。
潜在保育士の中にも、実習で保育士の仕事の大変さを感じた人、一度働いて保育士の仕事の辛さを味わった人からすると「自身の健康・体力」の不安を感じてしまうのでしょう。
自分の能力に対する不安
保育士として就職する不安要素について、「能力」と答えた人が25.0%です。
保育士の仕事をしたことがない保育士資格をもつ人や保育士から一旦離れている保育士からすると「自分が保育園で働いてついていけるのかどうか」「保育士として働く事が出来るのかどうか」と不安になってしまいます。
初めて働く仕事、久しぶりの仕事に対して「不安」を感じてしまうのは誰にでもあることです。
そもそも給料が安いことに不満がある
以下、保育士の業務と比較して給料について、質問した結果です。(現在保育士として働いている人も含む)
「かなり安い」「やや安い」と答えている人を足すと、約半数以上に人が「安い」と感じています。
ちなみに、筆者はもっと「安い」と感じている人の割合が高いと思っていました・・・。
専門性が高く、子どもの怪我や自己に対する責任もある保育士の仕事。
「かなり安い」「やや安い」と答えている人に「安いと感じる理由」について聞くと、以下の通りです。
安いと感じる理由
- 「職務の大変さ、責任に対して安い」と感じている人の割合は76.7%
- 「生計を維持するのに不足」と感じている人は10.3%
- 「勤務時間が長いにも関わらず安い」と感じている人の割合は5.0%
- 「その他、無回答」8%
保育士の仕事は、子どもの命に関わる仕事であるのに対して、給料が安すぎて潜在保育士が「保育士の仕事に対して魅力を感じない」そして現在、働いている人も「給料が安い為、働き続ける事が出来ない(生活できない)」と感じている人も多いのではないでしょうか。
潜在保育士が復帰するきっかけになるかも?最近の保育事情
「保育士ってどこも給料安いんでしょう」「臨時職員とか、契約職員とか雇用形態にもちょっと・・・」と思っている潜在保育士もいるかもしれませんね。
地域によって格差はありますが、保育士の働く環境は改善されてきています。
正職員雇用が増えている
全体的には、正職員雇用よりも、契約職員や臨時職員の方の採用の方が多いのですが、求人票を見ていると、正職員雇用も沢山あります。(地域による)
たとえば、東京都内保育園の場合、正社員雇用の件数は2,695件です。(9月18日時点ジョブメドレー調べ)
一方契約職員が176件なので、東京都内の場合は正職員雇用の方が圧倒的に多いことになりますね。
給料も上がっている
厚生労働省の平成30年賃金構造基本統計調査を参考にした、保育士の年収推移が以下の通りです。
年 | 年収平均額 |
平成28年 | 317万8千円 |
平成29年 | 342万1千円 |
平成30年 | 357万9千円 |
上記の表を見ても分かる通り、保育士の年収はここ数年、上昇しています。
年収が増えているのは、処遇改善手当というものがあるからです。
平成30年国税庁の民間給与実態統計調査によると、女性の正社員に限定した場合の平均年収は386万円。
一般的な女性(正社員)の平均年収と比較した場合、まだまだ「保育士の年収の方が低い」ですが、その差も年々縮まってきているのです。
【参考】保育士の処遇改善手当とはなに?実際にいくら貰えるの?
【参考】保育士の給料はいくらくらい?平均年収や月収、ボーナスまとめ
住宅手当等も充実している
最近では、受託手当てよりも「家賃補助」が充実しています。
家賃補助とは、保育士の住宅費用の全額または一部を保育園(事業主)が負担するというものです。
保育士の待遇を良くする為「保育士宿舎借り上げ支援事業」という政策が打ち出されて、埼玉県や大阪府等の一部の地域では取組が進んでいます。
たとえば、東京都等の待機児童の問題が深刻な地域では、宿舎借り上げ制度上限額「千代田区13万円」「渋谷区10万円」等、充実しています。
【参考】保育士の家賃補助。住宅手当や寮・社宅・宿舎借り上げ制度について詳しく解説
潜在保育士が復帰できるように研修や情報提供も充実
先ほど触れた通り、久しぶりに保育士として働く事を考えた時に自分の能力に対して不安を感じてしまいますよね。
各自治体では「保育士就職セミナーによる支援」に取り組んでいる為、「保育士として働きたい気持ちはあるけど、実務経験が・・・」と感じている潜在保育士はそういった取組によるセミナーを利用しましょう。
たとえば東京都保育人材・保育所支援センター「令和元年度保育士就職支援セミナー」によると、セミナーの講義内容例は以下の通りです。
- 保育制度と保育内容
- 子どもの発達と保育
- 子どもの食と栄養
- 乳幼児を引き付ける遊びと技術
- 過程支援・保護者とのコミュニケーション
- 危機管理と事故防止
- 就職活動について
他にも希望すればおむつ交換や食事介助、遊びや読み聞かせ等の体験もできる保育実習も可能です。
「まだ不安がは解消されない、もう少し知りたい」という人は以下の参考リンクも読んでみてくださいね。
【参考】保育士はブランクがあっても復帰、再就職は可能!最近の就職事情や不安解決方法を紹介
潜在保育士が復帰できるような対策方法とは
先ほど紹介した厚生労働省の調査では、潜在保育士が復帰するための対策方法として、以下の7点を挙げています。
潜在保育士が復帰できる対策方法
- 雇用時間のマッチング
- ワークシェアリングの推進
- 保育士向けの子育てサポート
- 事務作業の効率化
- リスクマネジメントの強化
- 離職防止のための保育士評価制度
- 潜在保育士の経験に合わせた実務研修制度
上記の中から、いくつか説明します。
「雇用時間のマッチング」とは、「潜在保育士には子育てや介護をしている人も多い」「保育士として働いた経験もないのに、いきなり長時間働く事に対して精神的にも肉体的にも辛い」事から、たとえば9時~15時等の短時間雇用や体力に合わせた勤務時間の対応をしていく等、保育園側に検討してもらうという事です。
子どもが小さいうちは、保育補助やパートとして働き、大きくなったらフルタイムで働くなど、保育園側が保育士を将来的な見通しを持って雇用するといった対応が求められています。
他にも、「差事務作業の効率化」。
「月案・週案・日案」等の保育士の事務仕事を、パソコンによってシステム化をすることによって、保育士の事務仕事に対する負担を減らします。
他にもたとえば、京都の保育園では、保護者にICチップ入りのカードを配って入退室の管理、延長料金の管理を簡略化したり、保育士がボイスレコーダーに引継ぎ事項を吹き込んで、事務員が回収して入力をする等。
上記の京都のように各都道府県、各自治体によって、保育士のための働きやすい職場作りが進められています。
「自分の地域ではどんな取り組みがあるんだろう」と思った時には、各都道府県の公式ホームページから確認してみると良いかもしれません。
【参考】30代未経験保育士でも就職できる!これから保育士を目指す人も歓迎
現場復帰するのは難しいと感じている潜在保育士は、まずはセミナー等に参加してみよう
まだまだ地域によって格差は激しいですが、確実に保育士の働く環境や給料は改善されています。
知らないだけ、耳に入ってこないだけで、待機児童も問題を解決するべく、国や都道府県は様々な取り組みを行っているのです。
最近の保育士の求人は、好条件な求人が多い為「そろそろ子どもも大きくなってきたいし働きたいな」と思っている潜在保育士は一度、保育士の求人を確認してみてくださいね。
良い求人を見つけた時に、すぐに動けるよう日頃からセミナー等に参加しておくと尚良いでしょう。
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